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2017年 09月 17日

「働き方改革」を考える(番外編)

【日本郵便事件東京地裁平成29914日判決】について

東京地裁は、日本郵便の有期雇用労働者について、労働条件の一部が、無期雇用の正社員と比較して不利益なのは不合理であるとして、損害賠償を命じる判決を出しました。

まだ、判決文が公表されていないので、詳細は分りませんが、報道によると、判決は、有期雇用社員と正社員の間には、その職務の内容等(担当業務の範囲及び配置転換の有無等)に大きな違いがあることから、賞与、早出・夜勤の手当に相違があるのは不合理とはいえないが、年賀状の配達の業務に対して正社員に支払われる「年末年始勤務手当」及び賃貸住宅に住む正社員にのみ支払われる「住宅手当」について、有期雇用社員に支払わないのは、当該手当の目的、性格に照らして不合理と判断しました。そして、「年末年始勤務手当」については8割、「住宅手当」については6割に相当する損害賠償金の支払を命じました。

また、「病気休暇」、「夏期冬期休暇」についても、前者は労働者の健康維持のための制度であり、後者は国民意識や慣習が背景にある制度であるとして、有期雇用社員に与えないのは不合理であるとしました。

また、不合理性の有無を判断するに際し、正社員の中でも、担当業務や異動の範囲が有期契約社員と似ている一般職の労働者の労働条件と比較して、不合理といえるか否かを判断した点にも特徴があります。

この判決は、ハマキョウレックス事件の大阪高裁判決と同じく、個々の待遇毎に、その不合理性の有無を判断しており、同一労働同一賃金ガイドライン案や法律案要綱の内容とも符合する判断です。

一方、判決が、長期雇用に対するインセンティブや有為の人材の確保といった理由で、正社員と待遇、手当額の相違を認めたのは、ガイドライン案が、「将来の役割期待が異なるため」といった抽象的・主観的な説明では足らず、職務内容、職務内容や配置の変更の範囲、その他の事情の具体的実態に基づき判断すべきとしていることとは異なった考え方を明らかにしています。賞与について、不合理な相違と認めなかったことも、ガイドライン案の示す考え方とは異なります。

いずれにしても、控訴される予定なので、高等裁判所の判断が注目されるところです。

なお、本判決は、正社員と同様の賃金その他の待遇を受ける地位の確認請求を認めませんでしたが、長澤運輸事件の就業規則のような定め方をしていない限り、地位確認請求を認めないのは多数説といってよいでしょう。
(吉田肇)


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# by tenma-lo | 2017-09-17 12:51
2017年 09月 17日

「働き方改革」を考える ~その1(補足 同一労働同一賃金について)~

(同一労働同一賃金 補足)

「その1」で触れた同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善について、補足します。

1 今回の法律案要綱では、現在のパートタイム労働法(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)を一部改正して、その適用対象を有期雇用労働者にも拡げ、名称も「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」と改めています。

 そして、現在の労働契約法20条とパートタイム労働法9条を合体して、有期雇用労働者とパートタイマー(短時間労働者)の両方の待遇について、同一の条文で規律しようとしています。

 その内容は大きくいって以下の二つがあります。

2 「不合理な待遇の禁止」

 一つは、現在の労働契約法20条と同趣旨の「不合理な待遇の禁止」です。

すなわち、事業主は、短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、通常の労働者の待遇との間において、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないとしています。

3 「差別的取扱いの禁止」

もう一つは、パートタイム労働法9条と同趣旨の「差別的取扱いの禁止」です。

そこでは、事業主は、通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者については、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取り扱いをしてはならないとしています。

これは、短時間・有期雇用労働者のうち、職務の内容が同一で職務の内容及び配置の変更の範囲も雇用契約が終了するまでの全期間において通常の労働者と同一である者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者)については、特段の事情がないかぎり異なった取扱いをすることができないという意味です。

3 両者の違い

「不合理な待遇の禁止」は、待遇にある程度の差異があったとしても、それが不合理といえるほどのものでなければ許されるのですが、「差別的取扱いの禁止」は、全く同一の取扱いをしなければ、違法になり、損害賠償責任も問題になります。程度の問題を許さないわけです。

4 定年後の継続雇用への影響~長澤運輸事件

長澤運輸事件東京地裁判決(東京地判平成28513日)を思い出してほしいのですが(過去のブログでも紹介)、当該事件は、判決の認定した事実によると、上記通常の労働者と同視すべき有期労働者に当たり、「差別的取扱いの禁止」の対象に当たる可能性があります。東京地裁判決は、法改正前においては、理論的には疑問があり、東京高裁で取消されましたが、この法律案要綱の内容には適合するといってよいかもしれません。

 ただ、法律案要綱には含まれていませんが、先に公表された労働政策審議会の「同一労働同一賃金ガイドライン案」では「定年後の継続雇用において、退職一時金及び企業年金・公的年金の支給、定年後の継続雇用における給与の減額に対応した公的給付がなされていることを勘案することが許容されるか否かについては、今後の法改正の検討過程を含め、検討を行う。」とされているので、長澤運輸事件のような定年後継続雇用の場合にどのような扱いになるかは、今後の法案の審議過程を見なければなりません。また、いずれ出る最高裁の判決も注目しなければなりません。
(吉田肇)


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# by tenma-lo | 2017-09-17 12:47
2017年 09月 15日

「働き方改革」を考える ~その1~

【吉田肇】
今回から、「働き方改革」について、連続して掲載します。


913日の中央労働委員会主催のセミナーで、使用者側弁護士のパネラーとしてパネルディスカッションに参加しましたので、そのときの発言内容を基本にしながら書きたいと思います。


なお、現在、労基法の一部改正案を含む「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」が公表されていますが、その内容を念頭に書きます。


(働き方改革全般の評価)

 私は、「働き方改革」の内容は、長時間労移動の是正、正規と非正規の格差の問題、また、生産性の向上や労働市場改革等、現在の日本の社会、経済が抱える構造的な問題を改革しようとするものであり、労使が協力して取り組むべき改革だと思います。

 経済のグローバル化やAI、Iotの発展により、今後雇用環境が大きく変化することが予想されます。失業率など比較的雇用情勢が安定している現在のうちに、スピード感をもって実行したいとする政府の姿勢には賛成です。


 各論についていえば、


① 「同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善」

については、既に明らかにされているガイドライン案の考え方をベースに改正案が提案されており、その内容は、使用者側としても、積極的に受け止めて各企業において具体化してゆく必要があると思います。

 なお、詳細は後で、申し上げますが、例えば、パートや有期雇用労働者に対する不合理な労働条件(待遇)の禁止原則が、基本給の他に賞与その他の待遇についても適用されることや、個々の待遇ごとに、判断されると明記されている点は、企業の労務管理に少なくない影響を及ぼすものです。

注意しなければならないのは、その改正法の施行日を平成31年4月1日としているので、企業の側は、早急に対応する必要があるということです。


② 長時間労働の是正、高度プロフェッショナル制度については、後程触れたいと思います。


③ 柔軟な働き方として、テレワークの導入支援を掲げている点は評価できますし、子育て、介護との両立支援策や障害者の就労支援、高齢者の雇用促進などは、企業の側も努力をしているところですが、一層の行政によるサポートを期待したいと思います。


④ また、転職・再就職支援は、産業構造の転換が今後進んでゆく中で、重要な意味を持つと思われますので、「実行計画」を受けて具体化を急がねばなりません。




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# by tenma-lo | 2017-09-15 21:29
2017年 09月 06日

従業員の能力不足を理由とする普通解雇の有効性の基本的な考え方及び考慮すべき基本的要素(東京高裁平成27年4月16日判決)

はじめに

今回は、裁判例(東京高裁平成27年4月16日判決)を通して、従業員の能力不足を理由とする普通解雇の有効性の基本的な考え方及び考慮すべき基本的要素を確認するとともに、実務上の留意点について考えます。

1 事案の概要

海空運事業者を対象とした健康保険事務の業務を行う海空運健康保険組合(Y)が、元従業員Xを、業務過誤及び事務遅滞を長年継続して引き起こしており、繰り返し必要な指導をしたが改善されなかったと主張して、能力不足を理由に普通解雇した。元従業員は、普通解雇が無効であるとして従業員たる地位の確認及び解雇以降の賃金の支払いを求めて提訴した。

2 判決の概要

Xは、上司の度重なる指導にもかかわらずその勤務姿勢は改善されず、かえって、Xの起こした過誤、事務遅滞のため、上司や他の職員のサポートが必要となり、Y全体の事務に相当の支障を及ぼす結果となっていた。

Yは、本件解雇に至るまで、Xに繰り返し必要な指導をし、また、配置換えを行うなど、Xの雇用を継続させるための努力も尽くしたものとみることができ、Yが15名ほどの職員しか有しない小規模事業所であり、そのなかで公法人として期待された役割を果たす必要があることに照らすと、YがXに対して本件解雇通知書を交付した時点において、Yは、Xの従業員として必要な資質・能力を欠く状態であり、その改善の見込みも極めて乏しく、Yが引き続きXを雇用することが困難な状況に至っていたといわざるを得ない。本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるから、有効である。

3 留意点

(1)能力不足や勤務成績不良を理由に解雇する場合は、単に能力が不足するあるいは成績が不良というだけでなく、それが企業経営に支障を生ずるなどして企業から排斥すべき程度に達していることが必要とされています。そして、会社が教育、指導を尽くしたか、改善の見込みがないのか、配転や降格(降給)といった解雇回避措置をとる余地がなかったのか等を考慮し、解雇以外に方法がない場合にはじめて解雇は有効とされる傾向があります。今回の裁判例もこのような傾向に沿っています。

(2)本件において、Xには、7年間程、過誤や事務遅滞が数多く見られ、その中には個人情報の漏えい等を伴う重大なミスもいくつか含まれていました。会社は、継続的な指導改善をしつつ、配置転換や部署異動、業務内容変更を複数回試みたが、Xの過誤や事務遅滞は改善がされることはなく、周囲の従業員のサポートも限界に達し、最終的には、派遣社員が必要となりました。

このような事情から本件では、解雇有効と判断されましたが、一審では、「せいぜい管理職としての力量不足としてみられるものであり、これが直ちに解雇事由になると解すべきではない」とし、解雇を無効と判断しています。Yが公法人ではなく、従業員の数も多い大規模事業所であれば、控訴審でも解雇無効とされていた可能性も否定できません。本件事案を一般化するべきではなく、あくまでも個別判断の結果であると理解した上で、能力不足解雇は基本的には認められにくいと考えておくのが誤った解雇をしてしまわないためにも重要です。

(3)能力不足解雇をする場合においては、能力不足や勤務成績不良を裏付ける客観的な証拠を日々残すこと、能力不足の程度に応じた教育指導を根気強く行い、改善の機会を十分に付与すること、事業規模に応じて可能な範囲で、配置転換等を行い、従業員の適性にあった業務を探す努力をし、それを証拠化することにより、裁判所に当該従業員を排除してもやむを得ないと説得できるだけの証拠を準備しておくことが肝要です。

以 上


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# by tenma-lo | 2017-09-06 16:00 | 労働
2017年 08月 03日

L産業事件(東京地裁平成27年10月30日判決)

はじめに

今回は、職務等級制度のもと職務変更に伴う降級の有効性が問題となった裁判例をご紹介

いたします。

1 事案の概要

原告Xは、被告Y社(L産業)の医療事業部医薬情報部においてチームリーダーとして勤務し、マネジメント職の「E1」グレード区分に格付けされていた。平成25年6月、Xが所属していたGチームが解散することになったため、Xは同年7月1日付で、職務を医薬事業部臨床開発部医薬スタッフとし、グレードを医薬職・ディベロップメント群の「医薬1」に変更された。また、基本給が月額約63万円から約49万円に減額された(賞与を含めた年収ベースでは年間合計で52~68万円程度の減収)。

そこで、Xは、降級前のグレードにつき労働契約上の地位を有することの確認、降級前後の賃金差額等の支払いを求めて提訴した。

2 判決の概要

Xの担当職務の変更を内容とする本件人事発令については、これに伴うグレード及び給与等の労働条件の変更を含め、「業務上の必要性がない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、それが他の不当な動機・目的をもってされたものであるとき若しくはXに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情がある場合には、人事権の濫用として無効になると解するのが相当である」。

本件で、Gチームの解散によりXの従前の職務、役職自体なくなったのであるから、Xを同チームリーダーの地位から外すことについて業務上の必要性が認められる。また、不当な動機・目的があったことをうかがわせる証拠は見当たらない。そして、Xに生ずる不利益の程度については平成24年度の年間収入との対比において4.5%から5.9%程度の減収が生じたことになるが、職務内容・職責に変動が生じていることも勘案すれば通常甘受すべき程度を超えているとみることはできないことを認定し、本件人事発令及びこれに伴うXのグレード変更を有効とした。

3 実務上の留意点

本件は、いわゆる職能資格制度(職務遂行能力を資格とランク(級)に序列化して基本給を定める賃金体系)ではなく、職務等級制度(職務を職責ごとに等級化し、等級ごとに給与範囲(レンジ)を設けて各労働者毎に賃金を決定する制度)のもとで職務変更が行われ、それに伴い賃金の減額が生じた事案です。過去にも下級審裁判例で同種の紛争が生じていますが、裁判例の判断基準は事案により区々です。職務変更(いわゆる配転)と降格の両方の性質を併有する人事処分であることが多様な判断をもたらす要因となっていますが、本判決の特徴は職務変更と賃金減額を一体のものとして把握しつつ、配転命令の有効性について判断した東亜ペイント事件最高裁判決の判断枠組みを提示し(「2判決の概要」下線部分)、本件人事命令の業務上の必要性や労働者の被る不利益を比較的緩やかに認定している点です。本件で裁判所がかかる判断枠組みを示したのは、Y社の就業規則・給与規則上職務分類が明示され、かつ職務に応じて賃金が決定されることが明記されていたこと、実際に職務変更に伴い賃金減額が実施されてきたという実態があったことが前提となっているように思われます。実務上は、就業規則に職務等級制度の採用及び職務の変更に伴う賃金減額が生じ得ることを明記し、かつ実際にも就業規則に従った運用を行うことが重要となります。

以上



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# by tenma-lo | 2017-08-03 10:48 | 労働