会社の労務管理をしていて、
「会社から資格取得費用を援助したいが、直ぐに辞められてしまっては援助の意味がなくなってしまう。
一定期間勤務を継続してもらえれば返金の必要はないが、直ぐに退職する場合は返金してもらいたい。」
と考えたことがある方も多いのではないでしょうか。
今日は、
海外留学から帰国後に退職した従業員に対して、会社が留学費用の返金を求めた裁判例(東京地判令和3年2月10日判決 労判1246号82頁)
を通して、資格取得費用の返金を求めるにあたって、何に注意するべきなのかを検討します。
【事案の概要】
・証券会社勤務の従業員は、会社の海外留学制度を利用して海外留学をした。
・会社は、留学費用は一旦会社が負担するが、留学後5年以内に退職する場合は、返金を求めることとしており、従業員にその旨記載がされた誓約書の提出をもとめ、従業員は誓約書にサインをし、海外留学をした。ところが従業員は帰国後、間もなく証券会社を退職したため、会社が誓約書を根拠に留学費用(約3000万円)の返金を求めた。
【争点】
1. 留学費用に関する返還合意が成立しているか
2. 返還合意が労働契約違反を理由とする違約金及び損害賠償の予定を禁止した労働基準法16条に違反しない
【裁判所の判断】
争点1について
裁判所は、留学費用に関する返還合意(消費貸借契約)が成立しているとして、会社の主張を認めました。その理由のポイントとして、
・従業員は,留学前に開催されたガイダンスとオリエンテーションにおいて,帰国後5年以内に退職した場合には一切の留学費用を返済する必要があり,その旨記載された誓約書を渡航前に提出する必要があると説明されている。このように、従業員は,本件誓約書を提出する前に,本件誓約書の内容について十分な説明を受けており,本件誓約書の内容を理解した上で,それに自ら署名押印して原告に提出している。
ということをあげています。
争点2について
裁判所は、返還合意は、労働基準法16条に違反しないとしました。判決理由のポイントは次のとおりです。
・留学に応募するか否かは,原告の業務命令によるものではなく労働者の自由な意思に委ねられており,その留学先や履修科目の選択も労働者が自由に選択できる。
・従業員は、留学によって別会社でも通用する有益な経験や資格等を得ている。そうすると,本件留学制度を利用した留学は,業務性を有するものではなく,その大部分は労働者の自由な意思に委ねられたものであり,労働者個人の利益となる部分が相当程度大きいものであるといえ,その費用は,本来的には,会社が負担しなければならないものではない
・留学費用についての原告被告間の返還合意は,その債務免除までの期間(5年)が不当に長いとまではいえないことも踏まえると,被告の自由意思を不当に拘束し,労働関係の継続を強要するものではないから,労働基準法16条に反するとはいえない。
として、会社の返還請求を認めました。
【実務上の留意点】
資格取得費用や海外留学費用の返金を求めた裁判例の多くは、会社が負担すべきものであるにもかかわらず、返金を求めることは労基法16条違反である一方、労働者が負担すべきものであれば、返金を求めることは許されるとしています。重要なのは返金を求める費用を会社と労働者のどちらが負担すべき費用なのかということですが、資格取得や海外留学が業務に近い性質があるかどうかです。
本裁判例は、留学に応募するかどうか、留学先の選択、履修科目選択が自由であったことから、留学が業務に近い性質がないと判断しています。これとは異なり、会社が資格取得を義務づけたりしている、あるいは資格取得自体は自由であるが、資格取得の方法を会社が制限して指定するような場合は、会社の業務の性質が濃くなり、資格取得費用を会社が負担すべきとされる方向になり、その費用の返金を求めることは違法となります。
また、返金免除までの期間については、長すぎてしまうと、その分、労働者の退職の自由を制限することになります。その期間を何年にするかは、返金を求める金額にもよりますが、長くても5年程度にとどめておくのが安全です。
このように、資格取得等の費用の返金を求める場合は、返金する旨の書面(消費貸借契約書)を締結するだけではなく、業務としての資格取得となっていないかどうか、返金を免除するまでの期間を長く設定しないことがポイントです。
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こんにちは。天満法律事務所の弁護士の前川宙貴です。
先日、顧問先企業様主催のパワハラ研修セミナーの講師を鈴木弁護士と勤めました。顧問先企業様の実務を踏まえた説明を盛り込む等の工夫をしたことで、現場の実情を踏まえた解説でわかりやすかったと喜んで頂きました。
パワハラ研修セミナーでよくお話するのは、コミュニケーションの重要性です。
パワハラは言動がパワハラとされることが多く、そのような事例や裁判例をご紹介して注意喚起をするのですが、パワハラを恐れるがあまり、パワハラにならないようにとコミュニケーションをできるだけ減らそうとする方がおられます。しかし、それは逆効果です。上司から積極的にコミュニケーションを取ることで発言の意図や背景が伝わりやすくなります。普段からのコミュニケーションが無ければ、強く指導されたということだけが印象に残ってしまい、ハラスメントではないかと誤解を与えてしまうことも多いです。
パワーハラスメントが生じないことは当然のこととして、コミュニケーションを通じて風通しのよい職場環境を作ろうという意識を持っていただく。それができれば、パワハラ研修セミナーは成功と考えています。
こんにちは。天満法律事務所の弁護士の前川宙貴です。
7月20日は「中小企業の日」でした。弁護士法人天満法律事務所は、実は中小企業と深い結びつきがあります。
当事務所の経営理念の一つに
『「中小企業のためのまち医者法律事務所」であること。中小企業に身近な法律事務所として、その抱える課題を的確に解決、予防し、よりよい企業づくりを応援するとともに、そこで働く従業員が幸せになることを応援します。』
というものがあります。
簡単にいうと、「町医者のように寄り添いながら、中小企業の悩みを解決予防することで、企業づくりをサポートし、働く従業員の幸せの応援もする」というものです。
天満法律事務所では、退職問題・残業代問題・ハラスメント問題・メンタルヘルスの問題等といった様々な会社と従業員間の労働問題を取り扱っており、注力分野としています。このような課題解決のサポートが私どもの仕事であるわけですが、次に同じような問題が生じないようにすることも大切に考えています。
問題が解決できれば会社にはもちろんメリットがあります。それと同時に職場に活気が戻り、生き生きとした職場環境ができればこれは従業員にとっても好ましいことです。同じ問題が生じることなく、好ましい職場環境が続き、それが中小企業を前に進める大きな推進力になると同時に企業で働く従業員の幸せへの貢献にもなる。このような好循環を生み出せればと考えています。
中小企業は日本全体の企業の99%を占めます。そこで働く従業員は労働力人口の70%にも上ります。日本経済と生活は、中小企業なしには成り立ちません。中小企業の皆さんへのリーガルサポートは非常にやりがいのある仕事と感じています。
何のために仕事をしているのか、当事務所の経営理念と中小企業との繋がりをふと考えてみた。私にとっては、そんな「中小企業の日」でした。
こんにちは。天満法律事務所の弁護士の前川宙貴です。
少し間が空いてしまいましたが、先日、当事務所主催のセミナーを開催しました。
近年の重要労働判例をピックアップして、最新の裁判例の動向を押さえつつ、そこから労務に活かすヒントを見つけるというセミナーです。
今回ご紹介した裁判例は
●有期労働契約の雇止めと無期転換
●長時間時間外残業と労災民事:会社の責任と取締役の責任
●定年後再雇用
●LGBTに関するもの
●労働条件の不利益変更(合意、就業規則の変更)
●退職勧奨の限界
●労働時間
に関するものでした。
これまでの裁判例の流れが引き続き確認できるものから、新しい視点での実務対応が必要となるLGBTの問題など幅広くご紹介致しました。
ご参加いただいた皆様には、セミナーに関するアンケートにもご協力いただき、好評でしたので、来年も同じテーマで引き続き実施したいと思います。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
私も、セミナーでは報告を担当しましたが、多岐にわたる裁判例の中からどの裁判例をご紹介するのがいいのかを選定する作業等は、大変である一方で、私自身も勉強できるいい機会だと捉えています。
同様のテーマで来年も開催する予定ですので、「こんな裁判例も紹介して欲しい!」等ございましたら、お気軽にリクエストを頂ければと思います。
次回は新型コロナウイルスのワクチン接種に関するセミナーを9月15日13時半から90分の予定で開催します。
ワクチン接種が推奨されるなかで、当事務所にもワクチン接種に関するお問い合わせが数多く寄せられました。そんな皆様への疑問と要望に応えるために実施する緊急セミナーです。
日が近づきましたら改めてご案内いたしますので、是非ご参加下さい。
↓↓↓天満法律事務所のセミナー情報はこちらから↓↓↓
こんにちは。天満法律事務所の弁護士の前川宙貴です。
新型コロナウイルス第4波の影響で4月25日から暫く緊急事態宣言となりそうです。
今回の緊急事態宣言は変異株の影響で感染者数もこれまでよりも多くなっていますね。マスクの着用、手洗いうがいの励行とこまめな消毒、お酒の席には参加しないといった基本の対策を徹底していきたいですね。
そんな緊急事態宣言中も法律問題は待ってくれません。当事務所では、非対面の法律相談を行っています。
会社のオフィスやご自宅から簡単に法律相談が可能です。当事務所でも1年程前から実施していますが、ご相談者の皆さんも特に大きな問題なくオンライン法律相談をして頂いています。
詳細は下記HPをご覧いただき、是非、ご活用下さい。
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元従業員に留学費用の返還請求.. |
at 2022-02-10 15:03 |
パワハラ研修セミナー |
at 2021-10-18 16:23 |
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