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~中小企業のための町医者法律事務所~

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再雇用の際に到底受け入れがたいような労働条件を提示する行為が高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に違反し不法行為となるとされた例(福岡高裁判決平成29年9月7日)




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こんにちは。前川です。
最近は企業様からのセミナーのご依頼を多く頂くようになり、毎月のようにセミナーをやらせていただいております。
私自身もセミナーを通して勉強させていただくことも多く、良い機会と考えています。今日は、定年後再雇用の労働条件の提示内容によっては、損害賠償に発展するケースがあるという裁判例をご紹介します。





【事案の概要】


原告従業員(「X」)は、被告会社(「Y社」)において定年前頃には主として各店舗の決算業務等を担当していた。Xは、平成273月末をもってY社を定年退職し、Y社が設けた継続雇用制度(高年法912号)に基づき、定年後の再雇用を希望したが、Y社が提示した再雇用の労働条件(本件提案)が概ね以下のような内容であったため、これを拒否した。


<業務内容>店舗決算業務43店舗(定年前:46店舗)、その他定年前より若干限定


<労働時間>実動6時間、月間約16日→96時間/月(定年前:172.5時間/月)


<賃金>時給900円(定年前:月額を時給換算すると1944円)、月収86,400円(定年前:335,000円)


Xは、Y社がこのような労働条件の提示しか行わなかったことは、再雇用の機会を侵害する不法行為を構成する旨主張した。


なお、Xは遺族補償年金(近時の月額77,475円)を受給しており、上記条件で再雇用された場合、高年齢者雇用継続基本給付金(14,610円)程度の支給が見込まれていた。


※高年齢者雇用継続基本給付金:60歳以降の賃金が60歳時点の75%未満となっていること等を条件に支給される給付金




【判旨】


「高年法9条1項2号に基づく継続雇用制度の下において、事業主が提示する労働条件の決定は、原則として、事業主の合理的裁量に委ねられているものと解される。」


「同法(同措置)の趣旨に反する事業主の行為、例えば、再雇用について、極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は、継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有するものであり、不法行為となり得ると解するべきである。」


「継続雇用制度(高年法9条1項2号)が「当該定年の引上げ」(同1号)及び「当該定年の定めの廃止」(同3号)と単純に並置されていること等からすれば、継続雇用制度についても、これらに準じる程度に、当該定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度、確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当である。したがって、例外的に、定年退職前のものとの継続性・連続性に欠ける(あるいはそれが乏しい)労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには、同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要であると解する。」


・本件提案における時給900円は定年前の時給換算額の半額にも満たないばかりか、月収ベースで比較すると、定年前の賃金の約25%に過ぎない。この点で、本件提案の労働条件は、定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない。したがって、本件提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには、そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要である。


・平成25年以降の店舗数の減少の影響等から、本件提案において、Y社がXに対し短時間労働者への転換を提案したことには一定の理由があったといえるが、本件提案によった場合の労働時間の減少が真にやむを得ないものであったと認めることはできない。そうすると、月収ベースの賃金の約75%減少につながるような短時間労働者への転換を正当化する合理的な理由があるとは認められない。


Y社が、本件提案をしてそれに終始したことは、継続雇用制度の導入の趣旨に反し、裁量権を逸脱又は濫用したものであり、違法性があるものといわざるを得ない。よって、Xに対する不法行為が成立すると認められる。→慰謝料額は100万円とするのが相当。




【裁判例からの学び】


1 労契法20条と高年法


定年後の再雇用の労働条件に関して、よく問題となるのは長澤運輸事件(最判平成30年6月1日民集72巻2号202頁)に代表されるように継続雇用した有期労働契約従業員の労働条件と正社員である無期労働契約従業員の労働条件に不合理な差異があるかどうか(労働契約法20条)ですが、継続雇用の際に提示する労働条件が高年法の趣旨に照らして適法か否かについても、本判決のように問題となりうることに注意が必要です。業務の内容や責任等が大きく減少しているため賃金の差異が不合理ではないとされる場合であっても、到底受け入れがたいような労働条件を提示するような場合は、高年法違反ひいては損害賠償の問題に発展してしまいます。



2 会社として望ましい対応


(1)賃金カーブの再設計

定年後再雇用を予定していない時代に作成した賃金カーブのままでは、定年後の再雇用の際にかかる賃金等が考慮されていないため、当然のことながら事業計画とマッチせず、ゆえに、本件のように極めて低い労働条件を提示せざるを得なくなってしまいます。65歳定年制を採用している会社はもちろん、65歳までの継続雇用を予定している場合でも継続雇用を織り込んだ賃金カーブを再設計する必要があります。


(2)個別の対応

どうしても低い労働条件を提示せざるを得ない場合は、会社の経営状況や人材の状況等につき、納得を得られるまで丁寧に説明して下さい。予め定年後の賃金設定が判明している場合は、定年をまたずに、できるだけ前倒しで情報をオープンにして、説明窓口を設ける等の工夫も考えられます。なお、具体的な労働条件について、無期労働契約従業員との間に不合理な差異が生じないよう注意すべきことは言うまでもありません。

(3)発想の転換

若年の労働人口が減少する中、中小企業は特に採用難、人材不足の時代です。次の世代を担う人材を探しつつも、長年の勤務により業務内容に精通している定年後再雇用の従業員に対しても、可能な限り賃金減少幅を抑えることにより、モチベーションの低下を防ぎ、生産性を向上させることが可能です。定年後再雇用の従業員には、通常業務を行いつつ、新人の教育を担ってもらうなど、新たな活躍の場を作ることにより会社全体の成長の一助とするという発想も必要かもしれません。

以上                                               (弁護士 前川宙貴)









# by tenma-lo | 2019-08-01 12:52 | 労働

メンタル不調を理由に休職していた従業員の復職が否定された例(東京パワーグリッド事件東京地裁平成29年11月30日)

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こんにちは。前川です。
GWが近づいてきましたね。今年は例年よりも連休が長期ですが、皆さんはもう予定を立てましたか?

さて、今日は、メンタル不調を理由に休職していた従業員の復職が否定された裁判例を紹介します。

復職にあたりリワークプログラムが組まれ実践されていること、主治医の復職可能との診断書を採用しないとした点に特徴のある裁判例です。




【事案の概要】



傷病休職していた従業員が、症状の改善がみられなかったためリワークプログラム※への通所を始めたが、改善が見られなかったとして休職期間満了により退職となった事案。主治医による復職可能との診断書もあり、同退職は無効であるとして争われた事案。



※リワークプログラム…うつ病などの気分障害に罹って働けなくなって休業した労働者向けに、病状の回復、安定と復帰準備性の向上及び再発防止のためのセルフケア能力の向上を目的とし、医療機関が診療報酬の枠組みで提供するリハビリプログラム



【判旨】



「リワークプログラムは、・・・生活リズムの回復、作業能力の回復、疾病理解、発症要因の分析、対人関係能力の回復を目的とするものであるから、リワークプログラムの結果を復職可能か否かの判断において使用する際には、復職した場合に定時の勤務が可能かという観点から、日時に時間どおりにリワークプログラムへ出席できているかがまず重要であるというべきである。」


「そして、職場での仕事の負担や人間関係等が精神状態を悪化させた原因である場合には、・・・・どのような場合に自分がストレスを感じるのか、ストレスを感じないようにするためにどうするか、ストレスを感じた場合にどう対処するのかという自己のストレス対処を分析し、復職した場合に遭遇するであろう仕事の負担や人間関係から生じ得るストレスに対し、対処が可能な程度にまで回復しているかも重視すべきである。」


としたうえで、リワークプログラムへの出席率が悪いこと、従業員本人が体調不良の原因を身体疾患にあると考えており精神疾患についての病識がなく、それゆえどのような場合にストレスを感じ、それにどう対処するのかという考察ができていないこと等を理由に、復職したとしても精神疾患の症状を再燃させる等、就労に支障が出るおそれが大きい状態であったとして、復職できる状態ではなかったとした。


復職可能との主治医の判断については、リワークプログラムの評価シートを参照しておらず、同プログラムに関与した医師の意見を踏まえないものであること、職場の実情や従業員の職場での勤務状況を考慮した上での判断ではないとして、復職可否の判断に際して考慮することは相当ではないとした。



【裁判例からの学び】



1 リワークプログラムの実施


休職していた従業員が復職できるかどうかを判断するために、リワークプログラムが実施されることがあります。もっとも、本件のリワークプログラムは医療機関が実施するものであって治療が目的とされているものでした。会社が復職の可否の判断をリワークプログラムの結果により行う場合は、事前にその旨を明確に告げておくのが適切でしょう。
今回のように従業員が病識のない場合は、治療も必要ないと考え治療目的のリワークプログラムの参加に消極的ですので、そのような場合は、特にリワークプログラムを実施する会社としての意図を明確に伝えておきましょう。
また、どのような結果であれば、復職の判断をするのかといった基準についても具体的に伝えることができれば、従業員の納得性も向上し、紛争には発展しにくくなります。



2 主治医の診断書の信頼性

本判決では、主治医の診断書が、リワークプログラムの評価シートやプログラムに関与した医師の意見を踏まえていないこと、職場の実情や勤務状況を考慮した上での判断ではないことを理由に採用されていません。


主治医の診断書は、メンタル疾患の場合は特に患者の主訴に影響されることが多くありますので、会社としては、労働者の同意を得たうえで、休職に至った経緯、復職後に従事する業務の内容やその負荷、産業医の意見、リワークプログラムを実施しているのであれば担当医の意見等、主治医が実情に則した医学的判断を行いやすいように情報提供を積極的に行うことが適切です。
                                                                       以上
                                                             (弁護士 前川宙貴)




# by tenma-lo | 2019-04-19 12:49 | 労働

身元保証人に対する損害賠償請求が制限された例(大阪地裁平成30年3月29日)

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こんにちは。最近暖かくなってきましたね。花粉の季節でもありマスクをつけている人も多くなってきました。皆さんは大丈夫ですか?


さて、今日は、従業員が違法に会社に与えた損害金について、身元保証人に請求したところ、身元保証人の責任が制限されたという裁判例を紹介します。




【事案の概要】


被告1は、塗装工事業等を事業とする原告会社に勤めていた元従業員であり、当時は工事監理係りであった。

被告1は、原告会社に在籍中、


①資材等をX社の業務とは無関係の個人的な利用に供して自己の利益を図る目的で発注
②工具を転売目的で発注

③取引先に納品代金を水増請求させ、水増し分相当額を当該取引先からY1名義の銀行口座に振込送金させる


ことにより、原告会社に合計約875万円の損害を与え、これについて、原告は被告1の元妻と従業員の子に対して身元保証契約に基づき保証債務履行請求を行った。




【判旨】


「被告1は管理係りとして・・・(取引先)に対する発注をする立場を利用して、自己の利益を図るために不正な発注や水増し請求を繰り返していたもので、その期間は平成2410月頃から平成273月頃までの相当長期間に及び、その不正行為の回数も多数回に及んでいるものであって、このような長期間にわたって不正が発覚しなかった一因として、原告において、請求書の内訳等の内容に誤りがないかと他の従業員が確認することなく、購入した物品の授受についても担当者に一任するなど、管理体制に相応の不備があったというべきであり、その結果、このように損害額が高額に及んでいることに鑑みれば、身元保証ニ関スル法律5条の規定に照らし、・・・身元保証人としての責任については、損害額の3割とするのを相当と認める。」





【裁判例からの学び】


1 会社の管理体制不備が理由に身元保証人に対する請求が制限される


身元保証ニ関スル法律は余りなじみがないかもしれませんが、身元保証人の責任や身元保証契約の効力について規定している法律です。



身元保証ニ関スル法律 5条

 裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無、身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度、被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス



本裁判例は、上記条文の「被用者の監督に関する使用者の過失の有無」の点を重視し、身元保証人の責任を損害額の3割に留めています。
会社としては、普段から十分な管理体制を整えることにより、従業員が不正行為を抑止予防する仕組みづくりが必要なことは言うまでもありませんが、そのような体制が不十分だと、不正行為を防止できないばかりか、身元保証人に対する請求についても制限されてしまうので要注意です。



2 202041日からは極度額を定めなければ無効


民法改正との関係では個人根保証契約(個人が保証人となり不特定の債務を保証する契約)の場合、極度額(保証人の責任の限度額)を定めなければ無効となりますので注意して下さい。
いくら身元保証契約書を用意しようとも、契約書に責任の限度額の記載がない場合は、身元保証契約が無効となり、身元保証人に対する請求もできなくなってしまいます。
今のうちから身元保証契約書には、
責任の限度額を入れておきましょう。


                                      以上


                              (弁護士 前川宙貴)




# by tenma-lo | 2019-03-19 14:19 | 労働

法律実務セミナー『中小企業のための「働き方改革関連法」』を開催しました。


こんにちは。平成30年11月28日、ドーンセンターにて当事務所主催の法律実務セミナー『中小企業のための「働き方改革関連法」』を開催いたしました。


経営者・人事労務担当者の方を中心に約40名の方にご参加いただきました。皆様、お忙しい中ご参加いただき誠にありがとうございました。


ご存じのとおり、働き方改革関連法は平成30年6月に国会成立し、来年4月以降順次施行されます。一部の規定は中小企業への適用が猶予されるなど経過措置が設けられているものの、いずれ中小企業にも改正法が適用されることとなります。


本セミナー前半では、長時間労働の是正(時間外労働の上限規制、年次有給休暇の時季指定義務、医師の面接指導及び労働時間管理等)に関わる労働基準法や労働安全衛生法の改正点をご説明しました。また、セミナーの後半では、いわゆる同一労働同一賃金に関するパートタイム・有期雇用労働法(労働契約法20条が、パートタイム労働法に移設され新しくできた法律)について、法改正前の最高裁判例(長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件)も踏まえた今後の展望についてご説明しました。


セミナー後の茶話会でも法改正後の実務的な運用についての疑問点やご意見など、充実した意見交換をすることができました。


今後も人事労務の現場でご活躍されている皆さまに有益な情報を提供できるようなセミナーを実施していきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


(弁護士 福崎浩)









# by tenma-lo | 2018-11-30 12:09 | 労働

「長時間労働の是正」のための「年次有給休暇を年5日は実際に与える義務」

はじめに

前々回は、平成30年6月29日に成立した、働き方改革関連法の改正の概要とその施行時期をご紹介し、前回は、「長時間労働の是正」のための「時間外労働の上限規制の導入」をご紹介しました。今回は、「長時間労働の是正」のための「年次有給休暇を年5日は実際に与える義務」他を取り上げたいと思います。


1 年次有給休暇を年5日は実際に与える義務

労働基準法が改正され、有給休暇のうち5日については、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならないとされました。有給取得率が高くない状況を改善することにより、長時間労働を是正することが狙いです。なお、義務が発生するのは有給日数が10日以上発生する従業員に限定されています。

施行時期は平成31年4月1日からですが、業務可視化による業務の効率化や副担当制等の導入により有給取得した従業員とは別の従業員でも業務が滞りなく行われるような対策を講じる等、有給休暇の取りやすい職場環境作りを今から始めてはいかがでしょうか。


2 月60時間を超える時間外労働の割増賃金率(5割以上)を中小企業にも適用

労働基準法上、1月あたり60時間を超える時間外労働については割増賃金率50%以上を支払う必要がありますが、これまで中小企業への適用は猶予されていました。ところが、今回、中小企業に対する猶予措置が廃止されます。これにより平成35年4月1日から、中小企業も、割増賃金率50%以上の支払義務が生じますので、これまで以上に時間外労働時間管理に注意を払う必要があります。


3 労働時間の状況把握義務

 労働安全衛生法66条の8が改正され、労働者の労働時間の状況を把握しなければならないものとされました(労働時間の状況把握義務)。労働安全衛生法上、長時間労働等の一定の要件を満たす従業員につき、事業主は医師による面接指導を行う義務がありますが、この面接指導を実施するために、厚生労働省令で定める方法により労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません。方法については、使用者の現認や客観的方法によることが原則とされています。使用者の現認以外の方法としては、例えばICカードやタイムカードによる記録が考えられます。

 なお、施行日は、平成31年4月1日です。


以 上





# by tenma-lo | 2018-09-05 16:19 | 労働