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マツダ自動車事件~派遣労働者との黙示の労働契約を認める~

1.マツダ自動車判決
 新聞報道によると、3月13日、山口地裁防府支部は、派遣労働者13名について、派遣先であるマツダ自動車との直接雇用関係を認める判決を出した。松下プラズマディスプレイ事件 最高裁二小平成21年12月18日判決(「大阪労働問題相談室)のHPの記事を参照)で、たとえ派遣法に違反する場合でも、直ちに派遣先との直接の労働契約の成立は認められないとする判決が出されて以降、労働者の請求を認めない判決が続いていた中で、異例の判決だ。
報道によると、裁判の大きな争点は、マツダ自動車の「生産サポート社員制度」が、派遣可能期間(3年)を算定する際のクーリング期間(期間計算をリセットするための空白期間)と認められるのかという点だったとされる。マツダ自動車は、報道によると、この空白期間中も「生産サポート社員」として直接雇用し、同じ職場で働かせていたとされるが、それが事実だとすれば、それを常用代替防止という法の趣旨を潜脱する一種の脱法行為と判断した判決も分からないではない。
2.黙示の労働契約の成否
  しかし、派遣可能期間の規制に違反をしたからといって、それだけで黙示の労働契約の成立が認められるわけではない。
派遣先や請負の受入企業との直接雇用関係が認められるためには、学説の多数説及び裁判例(伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件 松山地裁平成15年5月22日判決、高松高裁平成18年5月18日判決)は以下のような要件が必要と解しており、前掲松下プラズマディスプレイ事件最高裁判決もその考え方を踏まえたものだ。すなわち、
① 派遣労働者の賃金が、派遣先企業によって実質的に決定され、派遣元企業を介して派遣先企業自身によって支払われているとみなしうることが必要。
② 派遣先企業が派遣労働者に対して労務給付請求権を有すると認められることが必要(eg 派遣先企業が派遣労働者に対し作業上の指揮命令や出退勤管理を行っていることのみならず、社外労働者の配置・懲戒・解雇等の権限を有するか、賃金以外の労働条件を派遣先企業が実質的に決定しているか、その採用が実際上派遣先企業によって決定されているか、派遣労働者の業務の分野、期間が派遣法の定める範囲を超え、正規社員の就業と区別しがたい状況になっているか等の事情を考慮)
とされている。
 報道によるとマツダ自動車は、自ら派遣労働者をランク付けしていたとされており、実質的に自社の社員と同様の労務管理を行っていたと認定していることがうかがわれる。
3.非正規社員の「新しい正社員」化と解雇規制の見直し
 グロールな競争にさらされる輸出依存型の製造業において、景気変動に対応するための非正規雇用を継続せざるを得ない経済的要請は理解できる。
しかし、脱法はいずれ裁判所等から厳しく指弾されることになり、いつまでも続けられるものではない。コンプライアンスやCSRといった観点からも好ましくないことはいうまでもない。
非正規雇用については、労働契約法、労働者派遣法の改正で一層厳格に規制されるようになった。従来の正社員とは異なる「新しい正社員」というものが、いずれ層として形成される可能性もある。
こうした変化を踏まえるならば、正社員に対する厳格な解雇規制があるため無理に抱え込んだり(それが悪い形で現れたのが「追い出し部屋」だろう)、無理に解雇をして多大な時間と労力を費やす紛争を起こすのではなく、より合理的な解雇規制のあり方をそろそろ考えてもよい時期になっているのかもしれない。例えば、金銭さえ払えば解雇は自由というのではなく、解雇の客観的合理的な理由を補充する事由の一つとして相当な金銭の支払いを考慮することを法律に明記することも考えてみてはどうだろうか。現実の実務で行われている解決方法を法律で明記し、準則化することになる。もちろん、セーフティーネットや実効的な就労支援などの環境整備を同時並行で行うことが不可欠だ。

by tenma-lo | 2013-04-15 22:38